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日本人の美徳

平成18年1月1日記

あけましておめでとうございます。

昨年は世界物理年という年でした。「世界物理年」は、アインシュタインが光電効果の理論、ブラウン運動の理論、特殊相対性理論という三つの革新的な論文を発表した1905年から百年を経たことを記念して、国際純正応用物理学連合が定めたものです。

アインシュタインが訪日したときのエピソードが紹介されていました。彼は日本人の印象をこう記しています。

日本人は西洋の知的業績に感嘆し、成功と大きな理想主義を掲げて科学に飛び込んでいます。けれども、西洋と出会う以前に日本人が本来もっていた生活の芸術化、謙虚さと質素さ、純粋で静かな心、それらのすべてを純粋に保って、忘れずにいてほしいものです。(アインシュタイン「日本における私の印象」)

厭味もなく、疑い深くもなく、人を真剣に高く評価する態度が日本人の特色である。彼ら以外にこれほど純粋な人間の心をもつ人はどこにもいない。この国を愛し、尊敬すべきである。(1922年12月10日付、アインシュタインの日記)

最高の讃辞です。しかし、「純粋な心」は、悪意を持った人間に付け入られ、利用されてしまう一面があり、危険をはらんでいます。

法華経の「如来寿量品(にょらいじゅりょうほん)」にこんな一節があります。

「功徳を修(しゅ)し、柔和にして質直(すなお)なる者は 則ち皆、わが身、ここに在りて法を説くと見るなり。」(坂本幸男・岩本裕訳注『法華経(下)』岩波文庫)

様々の苦労・善行をなし、その上で心が穏やかで謙虚で素直な人は、仏陀がここにおられて真実を説くことを見る、つまり幸せに生きていける、という意味です。

アインシュタインが見た日本人は、当時の日本という恵まれた国土でぬくぬくと育った人間で、法華経の「柔和にして質直なる者」ではなかったのではないか、と私は考えます。当時の日本人が持っていた美徳はすばらしいもので、世界に誇るべきものだったと思います。そして、残念ながら、現在はその美徳が失われつつあります。私たちがめざすべきは、酸いも甘いもかみ分けて、その上で「柔和にして質直なる者」になることです。今年こそ、成熟した大人の日本人になりたいものです。

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